ばってん爺じのブログ

年を重ねても、尚好奇心旺盛な長崎の爺じの雑感日記。長崎の話題を始め、見た事、感じた事、感動した事などを発信。ばってん爺じのばってんはバツイチではなく長崎の方言

「欲望の経済を終わらせる」を読む

f:id:battenjiiji:20200907002511j:plain



「欲望の経済を終わらせる」は財政学者である慶應義塾大学教授の井手英策氏の著書である。

 

この本の中で、様々な国際比較調査(2015)が書かれてあった。仕事についての調査(2015年)は41の国・地域での日本の順位である。「失業の心配がない」は41カ国中40位、「収入が多い」は41カ国中36位、「仕事がおもしろい」は41カ国中39位、「仕事にストレスを感じる」は41カ国中3位、「勤務時間について、始めと終わりの時刻が決められており、勝手に変えられない」は41カ国中6位であった。日本の労働者は、仕事について失業の心配をし、年収に満足できず、仕事もおもしろいとは思えないにもかかわらず働いている。ストレスに満ち、働く時間も自分たちの思い通りに決められない。これが日本の労働者の平均的な姿である。

 

働くことが喜びにつながりにくい社会になっている日本で、いったい人々は何のために働いているのだろうかという疑問の答えも国際比較調査から理解することができる。

「医療制度、教育、治安、環境、移民問題、経済、テロ対策、貧困について、今の日本で最も重要な問題は何だと思いますか」という質問について、日本回答者の58.1%が「経済」と答えている。次は、チェコの43.4%、スペインの43.1%と続く。調査した36カ国のなかでは日本がダントツの1位であった。ちなみに、上位にくる国は、比較的貧しい国、自己責任を求められる個人主義の国の人たちである。つまり、日本人の大多数にとって最大の関心事は、環境でも教育でも貧困でもなく「お金」である。生きていくため、暮らしていくため、政府の生活保障が貧弱で、自己責任で生きていくことを求められる日本では、その度合いが高い。

 

「一億総活躍社会」というキャッチフレーズが明るく美しく語られていたことがあったが、実は苦痛や不安に耐え、それでも働くことを一生強いられ続ける社会のことのようだ。

 

そのような社会で生きる現代の日本人は「自由」をどのくらい感じているかという質問の結果は以下の通りである。

「どのくらい自由を感じますか」という質問に対して「1(まったく)」から「10(非常に)」までの数字で答える調査で、「10(非常に)」と回答した人の割合は58カ国の中で58位の最下位で、全回答者の点数の平均値では51位という低さであった。

 

「あなたは、自分の人生をどの程度自由に動かすことができると思いますか」という問いに対して、これを10段階で評価する質問について「人生は全く自由になる」と回答した人の割合は60カ国中58位、平均値で59位であった。

これらの国際比較から私たちの社会は、経済への依存、苦痛に満ちた労働、稼ぐ人と働く人との距離、終わりの見えない就労、奪われた自由、ーーーー私たちの社会は生きづらさに覆われてしまっているようだ。

 

平成30年(2018)国民生活基礎調査によれば、生活にゆとりがあるという人たちは約4%で生活に苦しいと答える人たちはほぼ6割であった。

 

「国際化と社会に関する国際比較調査(2013年)」によると、「他のどんな国の国民であるより、日本国民でいたい」の質問に対して「そう思う、どちらかといえばそう思う」と答えた人の割合は38カ国中4位、「一般的に言って、他の多くの国々より日本は良い国だ」は38カ国中1位であった。日本人であることについて、「とても誇りに思う」11位であった。

国を愛する気持ちを持つことはすばらしいことだが、問題は自尊感情と生活の不安定とのギャップが大きくなってきていることである。

 

 

 

そのような中、日本経済の国際的な地位は地盤沈下を始めている。1人あたりのGDP(国内総生産)は2018年はOECD加盟37カ国中20位であった。かつて2位を記録したおもかげはもはやない。また、将来の姿も楽観できない。評価額が10億ドルを超え、非上場で創立から10年を超えていない有望企業を「ユニコーン企業」と呼ぶが、2020年2月の時点でアメリカには216社、中国には206社あるが、日本にはわずか7社しか存在しない。日本経済は今や、世界経済をけん引したかつての勢いを失ってしまっている。

 

 

「政府の役割についての国際比較調査(2016)」によると「国会議員は選挙中の公約を守ろうと努力している」という問いに対して、「そう思う、どちらかといえばそう思う」35カ国中32位、「国家公務員の大部分は、国のために最善をつくしている」は27位であった。また「政府をどの程度信頼しますか」という問いに対しては「非常に」「かなり」と答えた人の割合はは60カ国中51位という低さであった。

 

著者はこのような様々な国際比較を元に日本の現実の姿を直視して、より良い社会を次世代に残す提言を行なっていた。

 

安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選について毎日熱く報道されている。総裁選に立候補されている政治家始め日本の政治家は「日本の政府は国民に信頼されていない」という国際比較調査結果をしっかり知っておいてもらいたい。そこから出発して、「日本の多くの労働者は、仕事について失業の心配をし、年収に満足できず、仕事もおもしろいとは思えないにもかかわらず働いている」この生きづらい社会をなんとかして欲しいと思う。自分で有効な対策を持たない政治家には井手英策先生の著書を読むことをお薦めする。